いまりの語り部屋

いまり(伊万里楽巳)が好きな作品について語るブログ

文芸こじらせ野郎たちによる俳句な日常|マンガ『ほしとんで』

はじめまして。「いまり」こと伊万里楽巳です。

ちょっと暇になったので、前々からやりたいと思っていた「好きな文芸作品(主にマンガ・小説・映画など)について好き勝手に語るブログ」を立ち上げてみました。

第一回は、俳句を題材に文芸系の芸大の日常を描いた『ほしとんで』です。
このブログを立てたら絶対に語りたいと思っていました。

それではお付き合いください。

『ほしとんで』のここが好き
  1. 端的で奥深い俳句の世界&「課題として創作に取り組む」文芸系芸大生の世界
  2. 十七文字の世界の詩情を豊かに表現するマンガならではのビジュアライズ
  3. シンパシーしか感じない文芸懊悩トリオほか魅力的なキャラクターたち

manga.line.me

基本情報

  • タイトル:ほしとんで
  • 作者:本田
  • 出版社:KADOKAWA
  • 巻数情報:全5巻(完結)

読んだきっかけ

Twitter(当時)のタイムラインに流れてきたこの試し読みツイートが出会いだったはず。「大学の授業での小説の講評」というシチュエーションが面白そうでついつい開いてしまった。
おかげで扉の女の子(薺さん)が主人公だと思っていた。

※改めて見返すと煽りに「今回”は”薺さんメイン!」って書いてあるな。

試し読みできた3話・4話と引き込まれて、そのあとすぐにKindleで当時出ていた2巻まですぐ買った。そのあとも単行本として出るたびに買って読んでいた。

ここ好きポイントその1:端的で奥深い俳句の世界&「課題として創作に取り組む」文芸系芸大生の世界

端的で奥深い俳句の世界

もともと趣味で小説を書いていて、文章表現は好きだった。
長文・散文だけでなく短い定型詩にも興味はあって、短歌についてちょっと勉強してみたこともあった。
このマンガを通じて「切れ字」「季語」「文語」によって生み出される世界の独特の面白さにすっかり惹きつけられてしまった。

ちなみに作中で個人的に好きな作品はこの辺り。

「風涼しラフマニノフの漏るる庭」2巻p117より

透き通るような清涼感が素晴らしい。

「白鯨の眼しづかに夜の色」3巻p123~125より

吸い込まれて落ちていってしまいそうな眼の中の夜。

「くだけてもくだけてもなほ蛇苺」4巻p125-126より

傷付き砕けてもなお前進するひたむきさ、健気さ、いじらしさに涙を抑えられない(それは幻です)。

「寒禽や海のにほひのしない海」3巻p150より

夏の海といえばむせかえるような潮の匂い。でも冬の海は匂わないんです。静かで寂しいんです。

全体的に見るとやっぱり隼先輩の句(「ラフマニノフ」「寒禽」)が正統派で格好良いかなーと感じますね。

「課題として創作に取り組む」文芸系芸大生の世界

同じくらい面白かったのが、いわば「文芸系芸大生の日常」とも言えそうな描写たち。
芸大といえば美術系の印象が強いけれど、芸術の世界にはもちろん他の領域もある(主人公たちが通うのは正確には「八島大学芸術学部文芸学選考」だけれど)。
講義で学んで、演習として創作して、それ以外でもレポートやエッセイ書いたりして、締め切りに追われながら少しずつ前に進んでいく。
「自分も大学の授業にもっと前向きに取り組んでいれば、あの貴重な時間をもっと楽しめたのかもなー」と思わずにはいられないノスタルジー

課題に追われたりスランプに悩んだりする流星(主人公)4巻p7・p28より

ここ好きポイントその2:十七文字の世界の詩情を豊かに表現するマンガならではのビジュアライズ

そのまま扱うと文字だけで地味な俳句の世界。それをマンガで表現するからこそビジュアル的なイメージが増幅されて豊かに捉えられる。『ほしとんで』はここが本当に上手いと思う。

「もう小さき若葉照り映ゆ桜の木」1巻150pより

わずか2語に込められた詩情をこれでもかと伝えてくれるカット。

 

特に最終エピソードの「連歌」のイメージが良い。絵があるおかげで連歌の急所である「付け」と「転じ」がすんなりと入ってくる。

「付けと転じ」の坂本先生解説 5巻p61より

「爪先立ち」から「分校の廊下」への転じ 5巻p72より

俳句以外の部分でもこういうメリハリの効いたイメージ挿入があってわかりやすいし、画面に動きが生まれて魅力的。小ネタにクスッと笑えたり。

「深海素潜り」「切れ字」のイメージカット 1巻p91より

ここ好きポイントその3:シンパシーしか感じない文芸懊悩トリオほか魅力的なキャラクターたち

キャラクターも魅力的。ゼミ生も先生方も先輩たちもみんな個性的で良い。
代表的なのが流星くん・春信くん・薺さんの人呼んで「文芸懊悩トリオ」。文芸創作に取り組む迷える若者の気持ちをこれでもかと代弁してくれている。

命名:文芸懊悩トリオ 2巻p34より

またの名をチームこじらせ 1巻p60より
主人公・尾崎流星(おざき・りゅうせい)

尾崎流星文芸こじらせ野郎モード 1巻p50より
寺田春信(てらだ・はるのぶ)

褒められ耐性のない寺田春信ことしゅんしん先生 3巻p9より
川上薺(かわかみ・なずな)

自称・喋るとすっげえキモい薺さん 1巻p110より
井上みどり&レンカ・グロシュコヴァー

ゼミ同期には他にママ学生のみどりさんやチェコとのハーフのレンカさん。
自分なりの距離感で文芸創作に向き合っていて芸術の広がりを感じられる二人。

みどりさんとレンカさんのバス車中の会話 2巻p12~13より
福島さん

そしてちょい役で一番好きなのが短歌ゼミの福島さん。
顔が良い。遠慮しなくて創作には真摯な性格も良い。好き。

俳句ゼミに聴講しにきた福島さん。意志が強い。 3巻p136-137より

創作には真摯な福島さん。この見上げるカット好き。 3巻p145より

吉良先生大好きな福島さん。かわいい。 3巻p155より

他にもゼミの先輩たち、講師陣、他学科の同期たちと個性豊かなキャラばかり(個別で取り上げられなかったけど航太郎くんももちろん好き)。

5巻あとがきには各キャラへの作者からのコメントが載っているのでぜひ読んでもらいたい。

番外編:好きコマセレクション

キャラクターとビジュアライズが特徴的な本作。

その他の好きコマをまとめてご紹介。

冬山の真顔感 1巻p46より

春の山は笑うらしい。では冬山は?→A:真顔

 

「今日は迷惑かけちまったな」1巻p156より

春信くんのツッコミが全て。何それ!? どの感情同士!?

さいごに

毎巻楽しみにしていたので5巻で完結してしまったのは非常に残念だった。
題材が地味だしマンガ映えするネタを出し続けるのも大変だっただろうか。それでもまだ色々膨らませられそうな感じはあっただけに……。

連載中から好きだったのにその「好き」をアウトプットしなかったのがずっと心残りだったので、今回この記事をかけてよかった。
でも引用コマの貼り付けばかりで気持ちの3〜4割くらいしか出力できていない気もするので、そのうち追記しているかも。

そんな感じで今後もどうぞよろしくおねがいします。